大好きな作家の一人である奥田英朗氏が朝日新聞に「沈黙の町で」を連載を始めるにあたって掲載されたインタビューで、「若いころに読んだジェフリー・アーチャーの『ケインとアベル』を再読」という箇所があり、彼に影響を与えた作品を是非読みたいと思い、早速図書館で翻訳版を借りて読んでみた。

上下巻の長編にも拘らず、あっという間に読了した。実に久しぶりにはらはらわくわくさせられる立身出世物語だった。故黒岩重吾氏のさらば星座 を読んで以来かな、男の人生はこうじゃなくっちゃと何度もうならされたのは。加えて、禁酒法、新移民時代(スラブ系の大量移民)、大恐慌、第二次世界大戦、JFKまでの歴代大統領の為政という時代背景に沿って物語が進行していくのでアメリカ現代史の良い勉強にもなった。
この物語はウィリアム・ケインとアベル・ロスノフスキ(もともとの名前はウワデク)という1906年4月16日の同日に対象的な家庭に生まれた二人の男 - 前者はボストンの名門銀行家の御曹司に生まれ、長身・頭脳明晰のサラブレッド、後者はポーランドの農村で貧しい猟師一家に拾われた捨子で小柄で障害がある。しかし頭脳は前者と同等かそれ以上に明晰- の生涯を描いたものので、ソ連シベリアの収容所を脱出し裸一貫でアメリカに移民したアベルがやがて全米屈指のホテルチェーンを構築し、個人的怨讐(誤解)から大銀行の頭取となったケインと全面対決をする。アベルの話は典型的なアメリカンドリームであるが、ケイン自身、けっして人生は順調だったわけではない。幼くして父がタイタニック号沈没で亡くなり、前科持ちの継父に信託遺産の一部を掠め取られたり、祖父と父が築いた銀行の頭取選挙で敗れたりと、アベルとは別のレベルで綱渡りの人生でもあった。書中ではしばしばボストンの通りやハーバード大学の行事が出てくるが、私自身がボストンに二年住み、職場にハーバード出身者が結構いたので、それらを非常に懐しく感じた。
ビジネスだけでなく、恋愛における交渉のテクニックがふんだんに散りばめられているので、中学生から高校生ぐらいの男に非常に適しているのではないだろうか。また、息子を野心的な人間に育てたい方は、小学生の時に、Paulo Coelhoの「アルケミスト」を読ませて、その後、この本を読ませれば、素晴らしい情操教育になるかもしれない。