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Archive for 2010年11月

 

20年前に出版されたベトナム戦争の従軍体験に基づく私小説的短編集である。私が時々ネットで視聴しているアメリカの公共TV局PBSのNewshourで、偶然作者のTim O’Brienがゲスト出演し、この作品についてインタビューを受けているのを見て興味を持った。電子書籍リーダーkindleのiPhone版で読書した最初の作品でもある。実際に読み始める前、ベトナム戦争は遠い題材だし、当時の為政者を批判した反戦イデオロギー満載の作品だったらうんざりすると思っていたが、杞憂に終わった。内容は従軍兵士としての記録である。戦死していった同僚兵士達に関する些細とまで思える日常的なエピソードがちりばめられている。英文は平易で、詩のようなリズムがあり、内容は悲惨でありながら、軽快に読み進むことができる。最初はフィクションなんだろうなと思っていたが、彼自身のみならず、同僚達が実名で出てくるので、最後はこの作品はノンフィクション、私小説なんだと信じるようになった。しかし、ネットでTim O’Brienに関してリサーチをしてみると、彼の作風はverisimilitudeと呼ばれ、フィクションと事実の境界線が曖昧なのだそうだ。実体験に基づく詳細な舞台設定はされているが、明らかにフィクションが付加されているという。彼自身、本巻短編の一つ”Good Form”の中で、作り話だから伝えられる事story-truthの方が実際に起こった事happening-truthよりも、真実を伝えられる場合があると述べている。具体的には,”I want you to know why story-truth is truer sometimes than happening-truth.”と率直に認めている。

個々の短編で特におもしろかったストーリーをいくつか上げる。故郷からとても可愛い18歳の許嫁をうまくベトナムの戦場に呼び寄せて至福の時を過ごした兵士、しかし彼女は兵士してとしての意識に目覚め、米軍特殊部隊グリーンベレーに加って活動するようになり、とうとう彼を捨て去った”Sweetheart of the Song Tra Bong”。ベトナムから除隊後、生きる意味を見失って、無為な日々を過ごす元同僚の兵士。ある日の彼は自宅がある湖周辺を父親のビューイックに乗ってひたすら(12回)も周回しながら、従軍中、底なし沼にはまって事故死した兵士を救えなかったことなどを自問自答する”Speaking of Courage”。私がこれはベトナム従軍中の兵士のやりきれない気持ちをうまく表現できているなと思ったのは”The Ghost Soldiers”に出てくる次の場面だ。兵舎に戻ったTim O’BrienはMary Hopkinsのテープをかける。同僚のAzarが話しかけるのを”Shut up and listen”と制し、甘い歌声を聞きながら戦争が終わったらロンドンまで行って彼女にプロポーズをするという妄想を抱く。皮肉にも、そんなナイーブな妄想を抱ける子供のような純粋な日々は2度と戻って来ないとMary Hopkinsがヒット曲”Those were the days”を通じて言っていることを彼は分かった。その時だ。

Azar switched off the tape. “Shit, man,” he said. “Don’t you got music?”

いやー、この時のAzarのやるせない気持ちがよくわかる。流行歌と二人の短い会話でここまでビビットに気持ちを伝えられる作者の技術の高さは素晴らしい。いずれにせよ、ベトナム戦争に関する名作のひとつ、英語も平易、短編集、一読を勧める。
The Things They Carried
The Things They Carried

ベスト・オブ・メリー・ホプキン
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