Feeds:
投稿
コメント

Archive for the ‘読書’ Category

この作品は本当に林芙美子が書き残した手記そのものと思わせる程、リアリティがあるフィクションである。林芙美子の夫 林緑敏の後添に入った芙美子の姪でもある林房江が知り合いの編集者と取り交わした往復書簡で始まる。彼女は夫が燃やせといった遺品の絵の中から林芙美子が書き残した手記を発見し、これを公表すべきかどうかを書簡にて編集者に相談しているのである。そのプロローグの後、芙美子の手記が始まる。『放浪記』を読んだことがある人だったら、誰しも感じる筈だが、まるで林芙美子の本物の手記を読んでいると思われるぐらい文体が林芙美子のそれに良く似ていた。一瞬、これはノンフィクションなのかと疑ってみたが、ネット上で、この作品の情報を調べた限り、やはり、この作品は桐野夏生の完全なフィクションであるようだ。

手記は主として七歳年下の妻子ある毎日新聞記者斉藤謙太郎(桐野による創作)とのW不倫関係の告白である。しかし、この作品の価値は、当時の林芙美子の文壇での立場、有名な作家達との人間関係の記述、そして彼女が昭和18年末に他の女流作家達とともに陸軍省の招聘でいわゆる南方従軍としてシンガポール、ボルネオ、ジャワ、スマトラ等の前線を訪問した記録にある。桐野夏生が史実とフィクションをどこまで混在させたのか検証できないが、特に後者については、戦中の戦意高揚のための軍部、新聞社、作家の役割分担がよく理解できたし、当時日本に占領されていた南方諸国の様子がよく分かった。残念だったのが、肝心要の林芙美子と斎藤謙太郎との恋愛関係の部分であった。肉体だけが結びつけるとても安っぽい不倫関係として描かれていた。とにかく桐野夏生が描いた女性としての林芙美子は、単なる淫乱女であり、斉藤謙太郎には二回目の対面で犯され、そのまま彼にのめりこんでしまったし、日本からシンガポールへの移動する長い船旅では、商船会社の男と連日船の中でSEXをする。

更に桐野夏生のことを許せないのはストーリーの締めくくりである。林芙美子は斉藤謙太郎の子を身篭り、夫に内緒で知り合いの婦人科医で出産し、貰い子だと偽って自宅に赤子を連れ帰り、躊躇する夫を言いくるめて、養子として育てたことになっている。いくらフィクションとはいえ、ここまで事実を歪めてしまっていいのか。林芙美子が当時常人をはるかに越えたスケールを持った女性だったといえ、ここまで話を仕立ててしまったことには甚だ呆れかえってしまった。

今回、桐野夏生の小説を初めて読んだ。素晴らしい筆力を持った作家であることは否定できない。しかし、昭和初期を代表する大女流作家の林芙美子をここまで冒涜してほしくなかった。せっかく名作の範疇に入るポテンシャルがあったのに残念である。

ナニカアル
ナニカアル

広告

Read Full Post »

青空文庫という著作権切れの古典を無料で読めるサイトがある。iPhoneアプリもあるので、これをダウンロードして、この齢まで読み忘れていた、明治、大正、昭和初期の文豪の作品を読むことに決めた。この文庫の有り難さは、名作を無料でスマートフォンにダウンロードして好きな時に読めることはもちろんだが、画面がヒューマン・フレンドリーで凄く読みやすいことだ。縦書きで1ページ当たり10行で行当たりの文字数も22字程度で目が疲れない。更に、バックグランドの隅々に適度に薄茶色の滲みが浮き出させており、まるで子供の時に図書館で読んだ古い文庫本そのものを読んでいるように錯覚させられる。

前置きが長くなったが、この青空文庫のお陰で、近頃、昭和初期の大ベストセラー林芙美子の『放浪記』を生まれて初めて読んだ。数ページ開けただけで彼女の世界にすっぽりとハマってしまった。子供の時から行商の両親の手伝いをして流転の人生、女学校を出て上京してからも職と男を転々として苦労が続いている林美沙子。日々の惨めな出来事を日記に描写しているのだけど、読んでいて苦しくなるというよりは、「よくぞ言ってくれました」と溜飲を下げたくなったり、「苦しいのは私だけでなく、あなたも大変だね」と同士を見つけた気分にさせられた。この小説が刊行された時は、昭和大恐慌から数年後のことで、不景気で日本国民の多くが食うや食わずの苦労をしていた時期、苦労話を語る彼女独自のビートがちょうど時代の空気にマッチして、多くの人々の支持を受けたのだと思う。

興味深いことに、『放浪記』の印税で大金を得た林芙美子は、28歳の時、朝鮮、ロシア経由でパリに一人旅をし、ロンドンまで足を伸ばした。日経ビジネスにかつて掲載された「特集・自分を生きた女たち~林芙美子」によると、少女時代に両親の行商に伴って見知らぬ土地をさんざん彷徨した林芙美子は見知らぬ街で生き残る術を心得ており、パリでは市場で人気者になったり、ロンドンではわざわざ職業斡旋所を覗きにいったようだ。

* 上記写真はいずれも新宿歴史博物館提供(左上が出発前、右上がパリの下宿屋、左下がパリの古書店での林芙美子)

木賃宿を定宿とする行商人の娘がベストセラーで一発当てただけでなく、20代後半の若さで、満州事変まもなく政情不安な朝鮮、ロシアを経由して、対東洋人だけでなく対女性差別もあった欧州に一人で出かける。大正末期に米ニュージャージー州の高校に留学した白洲正子さんのような超お嬢様とは違って、完全に独力によったのだ。その大胆さというか、上昇志向は凄いものだ。旅と文学が好きな私にとって、作家林芙美子はとても興味深い対象となった。そのタイミングではかったように、桐野夏生という作家が林芙美子の人生に鋭く切り込んだ『ナニカアル』という作品を書いていることを知り、鎌倉図書館で予約を入れて待つこと三週間、ついに本を入手して読んだ。
林芙美子 巴里の恋―巴里の小遣ひ帳、一九三二年の日記、夫への手紙 (中公文庫)
林芙美子 巴里の恋―巴里の小遣ひ帳、一九三二年の日記、夫への手紙 (中公文庫)
林芙美子―女のひとり旅 (とんぼの本)
林芙美子―女のひとり旅 (とんぼの本)

Read Full Post »

amazon.co.jp のStephen Kingの小説の読者評価ランキングで上から二番目に高かった小説がこの”The Shining”だった。多大な期待を持って読み始めた。読後の感想は「怖かった」と、「英語が難しかった」のふたこと。恐怖はKingの小説の真骨頂。コロラド州の人里はなれた山間地にある格式ある古いホテルに、豪雪で閉鎖される冬季の管理人としてヴァーモント州から住み込んだ親子三人を、呪われたホテルが様々な亡霊たちを使って殺そうとする。最後の最後まで身の毛が弥立つシーンの連続で、何度かページをめくるのを躊躇させられたぐらいだった。英語に関しては、一般的にStephen Kingの小説を原文で読むのは難しいが、特にこの小説は読みづらかった。ホテルの中の様々な施設で奇妙な現象が次々と起こるのであるが、知らない単語が多かったし、King独特の動作の記述がやはり出てきて、正直半分ぐらいしか何が起こっているかを正確に理解できなかった。ボリューム満載な小説なので毎回立ち止まって入念に調査していると小説の流れが切れるので、不明な点をかまわずに読み進めてしまった。このような事情があり、私の読後の評価は、amazon.co.jpに寄せられていた高評価ほど高くない。私一押しのKingの代表作”The Dead Zone”よりは絶対に劣るし、英語的には”Misery”が同様に難解だったが、この小説は”Misery”ほどの質の高さはなかったと思った。”The Dark Half”とはどうだろう。表面的には全く異なる題材を扱う小説だが、”The Dark Half”と”The Shining”は共通点が多いと私は感じた。モンスターである主人公の双子の弟が盗難車でニューイングランド、ニューヨークを移動する前者の方が、雪で閉じ込められたコロラドのホテルの中で親子三人と亡霊達だけで展開される後者よりも、退屈しなかったことは確かだ。

収穫は、題材は異なってもStephen Kingの小説に出てくるキャラクターには定番があるなと、この小説で確信したことだ。大学か高校で教鞭をとりながら小説を書いている30-40代のニューイングランドに住む男性(King自身の投影)。足が綺麗で性的な魅力溢れる妻(Kingの最愛の妻Tabbyの投影)、そして命を厭わず主人公家族を助力する重用な脇役男性(小説によって大きく異なる。The Shiningでは黒人コック)。”The Shining”では、これらの定番に加えて、若夫婦の6歳の息子が主人公の位置をしめた。Shiningとは、霊感によって、近未来に起こる不幸を予期できる能力。主人公の息子がShiningを持っており、それゆえに古いホテルに住み着いた亡霊や奇怪な現象がどんどん見えてしまい、恐怖に怯える。しかも霊感が強いことをホテル(ホテル自体が化物)が脅威に感じ、ホテルの方が両親だけでなく、特にこの息子を抹殺しなければならないと感じていた。冬が深まり雪で完全に外界から隔離されてしまうと、亡霊たちが夜通しでパーティーを開いたり好き放題を始めた。父親はホテルに魂を乗っ取られ、妻と息子の殺害を試みる。そんな恐ろしい話なのである。最後はなんとかハッピーエンドなのであるが、本当に紙一重の差だった。この小説を読んでしまうと、怖がりの人は古いホテルを今後敬遠してしまうかもしれない。
The Shining
The Shining

Read Full Post »

最初は鎌倉図書館で借りた古いペーパーバックで読み始めたが、分からない英単語が多いために、100ページ程度で断念。続いて、kindleにダウンロードしてビルトインされた英英辞典の助けを借りながら再挑戦すると、すいすいと読むことができた。この作品の概要は以下のとおり。もともと双子で生まれてくるはずだった主人公のThad Beaumontは母親の胎内で兄弟から栄養を奪い取りことで駆逐し、単一の赤ちゃんとして生を受けた。しかし、11歳の時、胎内で死んだはずの兄弟が、Thadの脳内で突如成長し、Thadはひどい偏頭痛に悩ませることになった。とうとう我慢できず専門医に診てもらったところ脳腫瘍という診断で、早速を除去手術を受けた。ところが、取り除いた腫瘍には人の目玉や歯があり、執刀医は衝撃を受けたが、脳内に双子が成長していた事実をThadや彼の両親には話さずにおいた。時は過ぎさり、Thadは作家兼大学教官となり、美しい妻Lizと双子の乳児WilliamとMaryと幸福な家庭を築いていた。作家として二作を発表し、デビュー作”The Sudden Dancers”は権威あるNational Book Awardにノミネートされるなど批評家からは高い評価を受けたが、両作と商業的に成功しなかった。そしてすぐにwriter’s block(作家のスランプ)にかかり作品が出せなくなった。スランプ脱出の一助として、ThadはGeorge Starkという別名を使って、冷血殺人鬼Alexis  Machineを主人公としたスリラー小説”Machine’s Way”を執筆・出版したところ、これが大ベストセラーになり、Machineシリーズの続編三篇もそこそこ売れ、George Starkは有名作家となり、Thadは印税でずいぶんと潤った。しかし、彼はGeorge Starkとして執筆している時はタイプライターを使わずに鉛筆を使って紙にじか書きし、また精神状態も不安定に陥っていた。この事をひどく心配した妻Lizは夫のThadにGeorge Starkとして執筆することを断念するように説得し、熱心なファンにThadとGeorge Starkが同時人物であることを見抜かれ脅迫を受けたことが切っ掛けで、タブロイド紙Peopleで、同一人物であることを公表し、同時にGeorge Starkは断筆を発表することにした。出版代理人とPeople紙に雇われたカメラマンの企画で、わざわざGeorge Starkの墓を用意し、その前でThadとLizを撮影し、掲載した。これでGeorge Starkと永遠に決別した筈なのだが、実はこれを契機にGeorge Starkがその作品の主人公Machineのような超冷血殺人鬼として、この世に登場したのである。ThadはGeorge Starkとして執筆中、胎内と11歳の時に除去した筈の双子の兄弟と精神的に接触し、協働作業で行っていたのである。George Starkはこの墓にかかわった墓守を殺害した。現場に残された指紋がThadと同一なものであるのでThadが容疑者として疑われ、墓のあるメイン州のリゾートタウンのCastle Rockの警察署長Alan PangbornはThadを逮捕するためにThadをメィン州Ludlow自宅まで訪ねるが、本人と直接あって見て、彼がとても殺人鬼であるとは信じ難く、Thadの話に率直に耳を傾けた。Thadの予言どおりにGeorge Starkはニューヨークに向かい、NYPDが厳重に警戒していたにも拘わらず、People紙での取材にかかわった代理人、その部下、カメランが次々と冷酷な手口で殺害されていく。警察が録音機をThadの自宅に据え付けると、すぐにGeorge Starkから電話がかかってきた。Thadとの会話を警察が分析したところ、なんと二人の声紋が完全に一致した。それでも警察署長のAlanはGeorge Starkの存在を信じられず、会話はもともとThadが録音をしておき、それを第三者を使って、わざわざ警察がいる時に掛けさせたとまで仮説をうちたてた。ThadとGeorge Starkは精神を共有しているため、各々が見るもの、各々が考えることがお互いに分かってしまっている。このまま行くとGeorge StarkがThadの心を占拠し、Thadがこの世から駆逐される危険にさらされていた。そして冷血怪物George StarkはThadが外出している間にLudlowの自宅にやってきて警戒していた警官二人を楽々と残忍に殺害し、Lizと双子の乳児を誘拐し、Castle RockがあるThadの別荘に向かった。Thadは警護している警察をまき、同僚の大学教官から車を借りてCastle Rockに向かった。警察署長のAlanは盗難車情報を受け、その車がGeorge Starkの故郷であるミシシッピのナンバープレートであったため、もしやGeorge Starkかと考え、Thadの別荘に近づいたが、まんまとGeorge Starkに捕まえられ、Lizらとともに人質として別荘内に監禁された。別荘には無数の雀が集結し、屋根や車寄せを覆うってしまうが、George Starkは全く気がつかない。そしてついにThadが別荘にやってきた。既にGeorge Starkとはテレパシーを通じて同意が出来ていたようで、二階の書斎で二人で新作の執筆を取りかかり始めた。その間にも雀は続々とやってきて、おそらく十億羽を越える規模となり、LizとAlanが詰めていた別荘の一階も雀でぎっしりと占拠されてしまった。書斎の中では執筆に夢中になっているGeorge Starkの一瞬のすきに鳥笛を吹いた。これを合図に雀達はGeorge Starkに襲いかかり、既に腐り始めた肉体を食いちぎり、ついにはGeorge Starkの肉体を空中に持ち上げ、彼方に連れ去ってしまった。

以上が、Stephen Kingらしい、恐怖と奇怪に満ち溢れたプロットである。”The Dead Zone”の上院議員Greg Stillsonといい、”Misery”の看護師Annie Wilkesといい、この作品のGeroge Starkという、Stephen Kingは超冷血殺人鬼を創作させれば天下一品である。俊敏、不死身のGeorge Starkなんか絶対死ぬわけないと思っていたが、作品前半からThe Sparrows are flying という意味不明なメッセージがたびたび登場していたのだが、まさかSparrowsがGeorge Starkを成敗してくれるとは想ong像だにしなかった。もしAlan Panbornという、プロフェッショナル意識が強いが人情味が溢れる警察署長が現われなかったら、この作品はただ恐ろしいだけだったかもしれないが、そこはStephen King、追い込まれた主人公には必ず人格の高い理解者を用意している。おもしろかった、でももう少し短くてもよかったのでは。この作品だけでなくStephen Kingの作品は、やはり長すぎる。
The Dark Half (Signet)
The Dark Half (Signet)

Read Full Post »

 

20年前に出版されたベトナム戦争の従軍体験に基づく私小説的短編集である。私が時々ネットで視聴しているアメリカの公共TV局PBSのNewshourで、偶然作者のTim O’Brienがゲスト出演し、この作品についてインタビューを受けているのを見て興味を持った。電子書籍リーダーkindleのiPhone版で読書した最初の作品でもある。実際に読み始める前、ベトナム戦争は遠い題材だし、当時の為政者を批判した反戦イデオロギー満載の作品だったらうんざりすると思っていたが、杞憂に終わった。内容は従軍兵士としての記録である。戦死していった同僚兵士達に関する些細とまで思える日常的なエピソードがちりばめられている。英文は平易で、詩のようなリズムがあり、内容は悲惨でありながら、軽快に読み進むことができる。最初はフィクションなんだろうなと思っていたが、彼自身のみならず、同僚達が実名で出てくるので、最後はこの作品はノンフィクション、私小説なんだと信じるようになった。しかし、ネットでTim O’Brienに関してリサーチをしてみると、彼の作風はverisimilitudeと呼ばれ、フィクションと事実の境界線が曖昧なのだそうだ。実体験に基づく詳細な舞台設定はされているが、明らかにフィクションが付加されているという。彼自身、本巻短編の一つ”Good Form”の中で、作り話だから伝えられる事story-truthの方が実際に起こった事happening-truthよりも、真実を伝えられる場合があると述べている。具体的には,”I want you to know why story-truth is truer sometimes than happening-truth.”と率直に認めている。

個々の短編で特におもしろかったストーリーをいくつか上げる。故郷からとても可愛い18歳の許嫁をうまくベトナムの戦場に呼び寄せて至福の時を過ごした兵士、しかし彼女は兵士してとしての意識に目覚め、米軍特殊部隊グリーンベレーに加って活動するようになり、とうとう彼を捨て去った”Sweetheart of the Song Tra Bong”。ベトナムから除隊後、生きる意味を見失って、無為な日々を過ごす元同僚の兵士。ある日の彼は自宅がある湖周辺を父親のビューイックに乗ってひたすら(12回)も周回しながら、従軍中、底なし沼にはまって事故死した兵士を救えなかったことなどを自問自答する”Speaking of Courage”。私がこれはベトナム従軍中の兵士のやりきれない気持ちをうまく表現できているなと思ったのは”The Ghost Soldiers”に出てくる次の場面だ。兵舎に戻ったTim O’BrienはMary Hopkinsのテープをかける。同僚のAzarが話しかけるのを”Shut up and listen”と制し、甘い歌声を聞きながら戦争が終わったらロンドンまで行って彼女にプロポーズをするという妄想を抱く。皮肉にも、そんなナイーブな妄想を抱ける子供のような純粋な日々は2度と戻って来ないとMary Hopkinsがヒット曲”Those were the days”を通じて言っていることを彼は分かった。その時だ。

Azar switched off the tape. “Shit, man,” he said. “Don’t you got music?”

いやー、この時のAzarのやるせない気持ちがよくわかる。流行歌と二人の短い会話でここまでビビットに気持ちを伝えられる作者の技術の高さは素晴らしい。いずれにせよ、ベトナム戦争に関する名作のひとつ、英語も平易、短編集、一読を勧める。
The Things They Carried
The Things They Carried

ベスト・オブ・メリー・ホプキン
ベスト・オブ・メリー・ホプキン

Read Full Post »

Stephen Kingの自伝兼小説作法の著作”On Writng”に、The Dead Zoneとともに彼が頻繁に例示していたのが、このMisery。前者に対してはミステリーだけでなく文学作品としても非常に質が高いという読後感をもったが、本作品については、Stephen King本流の、残酷て、Non native English Speakerには読解が難しい、細かい動作の記述が多いミステリー作品であると思った。ストーリーは以下の通り。人気作家のPaul Shldonがコロラドのホテルで新作を脱稿し、その達成感で高揚した気分のまま猛吹雪の中、車で西に向かった。ところが途中運転を誤り大事故にあい意識不明になったところを、彼の大ファンである元看護士のAnnie Wilkesに救出され、彼女の家に収容された。ところが、このAnnieは極度の躁鬱病で実は過去に数十人の命を奪った殺人鬼で、両足骨折の重傷で動けないPaulはゲストルームに監禁されてしまう。Annieは自称Paulの#1ファンで全作品を少なくとも二度読んでいる。彼女は、特にMiseryという女性主人公が出てくるイングランドを舞台にした恋愛物語シリーズが大好きで、最新作でMiserygが死んだことに憤りを感じ、Paulに対してAnnieだけのために、Miseryが復活する新作を書くように命じる。そして監禁状態の中、骨折の痛みとAnnieから与えられた骨董品のようなタイプライター(しかも頻繁に使われるアルファベットのnのキーが無い)と格闘しながら、Miseryの新作品の創作を始めた。Annieは大柄で逞しく、かつ狡猾。両足が使えないPaulでは絶対に倒せない相手。それでも彼は智慧を振り絞り部屋の内鍵をヘアピンでこじ開け、リビングまで車椅子で移動し、電話をかけようとするが、電話はつながっていなかった。また、ストックルームに行って鎮痛剤や食料まで少しずつくすねてきた。ところがAnnieはこのことはお見通しだった。Paulは致命的なミスを犯す。チャンスがあればAnnieを刺し殺そうとキッチンから大きな包丁を持ち去ったのであるが、このことがAnnieの怒りに火をつけ、なんと彼女は、罰としてPaulの左膝下と左親指を切断してしまった。この後Paulは脱出を諦め作品の執筆に集中する。タイプライターの方はガタが来て、nだけでなく、その他のキーも使えなくなってきたが、作品の方は素晴らしい出来栄になってきた。そんなある日、Paulの写真を持った若い警官が単独でAnnieの家までやってきた。Paulはタイプライターを窓に投げつけるなどして必死で警官に助けを求めようとしたが、警官はAnnieに不意を襲われ、殴り殺されてしまった。さすがに警官まで殺したため、Annieは他の警官からの訪問を何度か受け、いよいよ家宅捜索をマジかの様相となった。Paulの方はMiseryを完成させ、それをAnnienに披露することになった。記念のシャンパンを持ってPaulの部屋に入ってきたAnnieに対してPaulは決死の攻撃を仕掛け、ついにPaulは不敵の殺人鬼Annieを殺した。

登場人物はPaulとAnnieの二人、しかも、その大半は狭い部屋に閉じ込められたPaulの心の格闘を描いた作品で、また不自由な体をなんとか動かす部分の英語の記述が私には難解で、前半はほんとうにつまらなかった。しかし、後半はAnnieに命じられて書き始めたMiseryシリーズの新作の草稿が何章も登場したり、Annieの狂気が増幅した恐怖の場面があったりで、まるで自分がPaulになったような気分で背筋に寒気を感じながら読み進むことが出来た。また、この作品がStephen Kingのホラー、ミステリー作品の本流にあることも良く分かったが、それでも、より文学性の高い”The Dead Zone”の方が数倍良いと思った。本作品は完全な娯楽作品で、「あー怖かった」、「Paulが助かって良かった」という感想が残って終わりである。それ以上に、何も残らない。しかし、それがStepen Kingが読者に意図した価値なのであろう。
Misery
Misery

Read Full Post »

1930年代から1970年代後半にかけて活躍した英国人作家Graham Greeneの晩年のスパイ小説”The Human Factor”を読了した。Greeneの作品を読むのは、今回が初めてだった。Stephen Kingの”On Writing”で推薦図書としてGreenの著書が二冊巻末にリストアップされており(”Our Man in Havana”と”A Gun For Sale”)、更に本文中でも会話の名手の一人として、この名前が出てきた。それでGreeneの作品を読むことに決めた。”The Human Factor”は、amazon.co.jpでユーザーレビューの評価が高く、在庫があったので選んだ。時代は冷戦時代(おそらく1960年から1970年のどこか)、主人公はイギリスの諜報機関の南西アフリカ局に勤めるMaurice Castle、年齢は50代後半で、ロンドン郊外に再婚した妻と妻の連れ子、そして愛犬で仲むつまじく暮らしている。Castle(職場でこのように呼ばれている)は以前南アフリカで諜報活動をしていたことがあり、妻は現地で連絡係として使っていた黒人の一人。アパルトヘイト下で黒人差別、弾圧の強い中、共産党系のスパイの力を借りて、彼女とその連れ子を南アフリカから無事脱出させ、ロンドンで結婚した。しかし、その引き換えに、南アフリカの共産党に、イギリス諜報機関の情報を定期的に流すようになった。Castleは二重スパイであった。Castleの働く英国諜報機関(the British Secret Service)の南西アフリカ局は局長のWatson、年下で独身のDavisとCastleの三人チーム。このチームから情報の漏洩があることを上層部が気づき、局のメンバー、DavisとCastleに対する内偵が始まった。独身で、アパートで環境局の連中とルームシェアし、酒癖の悪いDavisは強い疑いをかけられる。動物園で秘書の一人とデートするために、歯医者に行くと嘘をついて勤務先を抜け出したのがばれて彼への嫌疑は更に深まった。結局彼は機関の産業医に毒薬をしくまれ表面的には病死ということで組織的に抹殺されてしまった。CastleはDavisの死を機に南アフリカ共産党への情報提供を終わりにすることにし(情報漏洩が続く、Castleが犯人であることが自明になる)、それをロンドンにいる共産党のコンタクト先に伝えた。ところが、Castleは南アフリカから派遣されてきた政府諜報機関長官から南アフリカの共産党員を危機に陥れる情報を得たために、自らの地位を失う覚悟でその情報を共産党のコンタクトに提供し、妻とその連れ子はCastleの母親の実家に行かせ、自らは共産党諜報機関の手引きでモスクアに亡命をした。たったこれだけの物語である。アパルトヘイト、東西冷戦などのテーマを扱っているので、古い映画を見ているような感覚で読書を続けたが、主人公Castleの高潔な人格に強く感銘を受けた。彼は、南アフリカ黒人妻Sarahと、その連れ子Samを、掛値無しで心から愛しているのだ。まだ妻だけなら理解できるが、妻が他の黒人の間で儲けた男の子まで実の子以上の愛情を示す。職場では、南アフリカの反政府組織に属していた女性、しかも黒人と結婚したということで好奇の目を浴びていた。Castleは英国の上流階級に属しており、実の母親は言葉には出さないものの黒人の嫁と黒人の孫がいることを不快に思っている。しかし、Casterは周囲の目を気にせず。ロンドン郊外にある小さな家で献身的に家族を守る。Castleが息子Samのために枕元で本を朗読する場面は感動した。ストーリー自体よりも、なんて素晴らしい人なんだろうというCastleに対する感情移入ばかりしていた。

Greeneの後期の代表作である本作品でさえ、古臭さを感じたので、彼の他の作品はもっと、そうなんだろうと思う。あと一作、Stephen Kingが推薦していた”Our Man in Havana”だけ読もう。

Read Full Post »

Older Posts »